ドローン物流「社会実装」に向けてテイクオフ – セイノーHDと小菅村で目指す世界

前回のブログ「ドローン物流の未来像2020」では、エアロネクストが日本国内におけるドローン物流産業の立ち上げに貢献していくことをお伝えするとともに、ドローン物流の国内外の状況や当社独自の構造設計技術「4D GRAVITY®︎」の有用性、日本におけるドローン物流の動向を網羅的に整理しました。

いま、我々は山梨県の小菅村というところに、ドローン配送サービスを主事業にする戦略子会社「NEXT DELIVERY」を設立し、同村へのドローン物流の「社会実装」に着手しようとしています。

我々は小菅村で、3つのことを目指したいと考えています。1つめは、小菅村という地域コミュニティの経済的発展と地域住民の方々のQOL(Quality of Life)の向上。2つめは、物流業界の課題解決。そして3つめは、ドローン物流市場の確立です。

今回は、2020年5月にANAホールディングスとの業務提携を発表して以降、我々が進めてきた「ドローン物流」への取り組みと、セイノーホールディングスさんとの業務提携、小菅村における今後の展開についてご紹介します。

目次

日本におけるドローン物流の現状

2021年3月に発行された「ドローンビジネス調査報告書2021」によると、物流市場は2022年度から急速に拡大し、2025年には約800億円に成長する見込みです。

拠点間輸送、配送、緊急輸送という、ドローン物流の3つのカテゴリのうち、商用化が進みつつあるのは拠点間輸送で、2020年は、長野県伊那市でKDDIのシステムを活用したドローン物流サービスが始まったほか、ANAホールディングスによる五島市での取り組みをはじめ、さまざまな実証実験が進められました。

エアロネクストも、2020年11月に山梨県の小菅村との連携協定を締結し、2021年1月には国内初となるドローン配送専門の会社を設立して4月末より村内の一部地域でドローンの試験配送を始める予定であるなど、ドローン物流の社会実装に向けた動きを加速しています。

ローン物流をとりまく環境

ドローン物流をとりまく環境について、3つの視点から整理します。まず最初に、新たな制度整備についてです。

2020年7月17日に公開された「空の産業革命に向けたロードマップ2020」では、2022年度には有人地帯における目視外飛行(レベル4)の実現が明記され、2021年度はこれに向けて、新しい制度の整備に向けた動きが加速する見込みです。

2021 年 3 月 8 日に公表された「無人航空機 の有人地帯における目視外飛行(レベル4)の実現に向けた検討小委員会中間とりまとめ」では、第三者の上空を飛行するというリスクを踏まえて、リスクの程度に応じた3つのカテゴリ設定や、飛行の許可・承認制度の合理的簡素化、機体の安全性を担保するための機体認証制度や操縦者の技能を証明するための操縦ライセンスの創設などが明記されました。

また、ドローン物流に関しては、「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン Ver.1.0」(※1)が公表され、道路、河川、国立・国定公園、国有林野、港湾等の上空を単に通過する場合には原則手続きが不要であると整理されています。当社もこうしたガイドラインに則って、社会実装を進めていく予定です。

(※1)「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン Ver.1.0」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/pdf/siryou17.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/pdf/siryou16.pdf

次に、コロナ禍において「新しい生活様式」が確立したという点は、ドローン物流にとって追い風だと捉えています。具体的には、非接触、リモートの推進や、“ステイホーム”を充実させるためのeコマースへの加速です。この流れは不可逆的で、かつ「すぐに欲しい」という新たなニーズも生まれてくると考えられます。 そして、管政権において初めて政策として明言された「脱炭素」の流れも、長期的にはドローン物流を加速させるトレンドになると見ています。陸路や船便での輸送・配送と比べて、直線的ピンポイントに動けるドローンのほうが効率よいシーンが多々あるためです。

エアロネクストが物流に注力する理由

このようななか、エアロネクストは2020年、物流に注力する方針を打ち出しました。当社のコア技術である「4D GRAVITY®︎」は、いままさに市場が立ち上がろうとしている物流領域にこそ求められていると判断したためです。

世界的な動きを見渡すと、ドローン物流の機体は、重心位置を意識した構造の専用機体に移行しています。この現象は、当社が創業当初より打ち出してきた4D GRAVITY®による重心制御の必要性を物語っているといえます。

従来のドローン物流の機体は、汎用機のペイロードを置き換えた構造です。機体が下重心化する、空気抵抗が大きいという課題がありました。我々は、ドローン物流の機体に4D GRAVITY®を搭載することで、ドローンの基本性能や安全性を向上し、また「荷物を傾けないで水平に運べる」という配送品質の向上によって、ドローンに対する社会受容性の向上やドローン物流の新たな市場の開拓に寄与できると考えています。

顧客不在」の実証実験から、「ビジネス開発」へ

エアロネクストがドローン物流における取り組みで、最も重視してきたのは「ビジネス開発」です。

予め決められた枠組のなかで、特定の荷物を特定のユーザーにお届けする実証実験だけでは、「顧客不在」が否めません。「不特定多数の荷物を、不特定多数の利用者にお届けする」という環境でドローン配送を実装し、ビジネス開発を行っていくことが不可欠だと考えたのです。

そのためには、実際に荷物を運んでいる輸送事業者と一緒に取り組む必要があります。置き配やコンビニ受け取りなど、受取方法が多様化しつつある物流業界において、ドローンはその新たな輸送・配送システムのなかの一手段にすぎない、こうしたビジョンを共有できたのが、2021年1月に業務提携を発表したセイノーホールディングスでした。

ドローン物流「ビジネス開発推進」の要諦

ドローン物流のビジネス開発推進において、まずは3つの要素が必要だと考えます。1つめはハードとソフトの用意、2つめは実際に日常的にドローン配送を行う地域とその現地での協力者、3つめは先に述べた輸送事業者との連携です。いずれが欠けても、ドローン物流を社会実装し、ビジネス開発を進めていくことは不可能です。

(1)ハードとソフトの用意

ハードとは機体や離着陸場などさまざまな設備、ソフトとは自律航行で配送するための運航システム(GCS:グラウンド・コントロール・システム)です。

ハード面では、国産の用途特化型ドローンを開発する自律制御システム研究所(以下、ACSL)と、4D GRAVITY®を搭載した物流特化型ドローンの共同開発と量産化に向けたライセンス契約を締結しました。

ソフト面では、ACSLと、エアロネクストが産業用ドローンのソフトウェア事業において業務提携しているACCESSの3社で、協業して物流用ドローン向けのソフトウェアの開発を進めています。

(2)社会実装の対象地、現地の協力者

ドローンが日常的に「不特定多数の荷物を、不特定多数の利用者にお届けしている」、つまり「ドローンが社会実装されている」状況を作るためには、その対象地の選定や、何よりも現地にドローン物流への理解を示し協力してくれる仲間を持つことが重要です。

我々は大変幸運なことに、山梨県東部にある小菅村というエリアに出会い、2020年11月にドローン配送導入による地域活性と新スマート物流の社会実装に向けた連携協定を締結しました。

また、その小菅村に、国内初となるドローン配送専門の会社「NEXT DELIVERY」を設立して、セイノーホールディングスと新たな取り組みを行う予定です。こうした動きをスピーディに進めることができたのは、現地に根差し、地域の方々との橋渡し役を担ってくださる仲間があってこそです。

実証の「場」をお借りするというスタンスではなく、その地域に住む方々の生活の質や幸福度の向上をともに目指して試行錯誤するなかで、ドローン物流のビジネス開発を進めていくべきだと考えます。

(3)輸送事業者との取り組み

ドローンで荷物を運べることだけを社会実装がその先にない実験として何度試してもビジネスには発展しないため、輸送事業者とともに取り組み、輸送・配送システムのなかにドローン配送を組み込むことが必要です。

エアロネクストは、小菅村という具体的なエリアを提示できるようになった段階で、セイノーホールディングスとの協議を重ね、2021年1月に新スマート物流の事業化に関する業務提携契約を締結しました。

そして2021年4月から、既存の物流とドローン物流を連結・融合する新たな仕組みを作り、丁寧かつ段階的な試験運用を経て、小菅村にお住まいの方々へのドローン配送事業を確立していく予定です。

小菅村でセイノーホールディングスと取り組むこと

小菅村でセイノーホールディングさんとエアロネクストが取り組むことについて、一部をご紹介します。

まず、既存の物流で小菅村に運ばれた荷物を保管し、ドローン配送を含むさまざまな配送手段によるラストワンマイルの起点となる「ドローンデポ」を共同運営します。また、既存の配送システムとドローンの運航システムの連携も行います。

村民の方々からすると、ドローン配送という新たな配送手段を“選べる”ようになります。ドローンが荷物を運んで置き配する「ドローンスタンド」を村内の各集落に設置して、村民の方がドローン配送を選んだ場合にはドローンスタンドまで荷物を受け取りに行くことになります。

このように、ドローン配送というオプションが既存物流に加わることをきっかけに、過疎地域における物流のあり方そのものを刷新し、自動化、無人化、需要予測なども視野に入れた新たな物流、新スマート物流の仕組み「SkyHub™️」を共同で開発していくことが、小菅村でのセイノーホールディングさんと取り組みの狙いです。

我々は、小菅村で地域コミュニティの経済および住民の方の幸福度向上に貢献できる新たな物流の仕組みを構築できれば、日本全国817の過疎地域に展開できると見込んでおり、志を同じくする企業さんにはぜひ仲間になっていただき共に取り組みたいと考えています。

我々の狙いについては、こちらの記事で詳しく取材していただいたので、合わせてお読みください。https://japan.cnet.com/article/35168919/

物流においてドローンが果たすべき役割

最後に、物流においてドローンが果たすべき役割について、我々の考えをご紹介します。

小菅村でのドローン配送は、当初は別途料金を頂かず、無料でドローンを利用いただけるサービスとして始めます。しかし、ドローン配送に適したユースケースの洗い出しを進めていくと、「緊急で配送して欲しい」「買ってすぐ入手したい」といった時間的価値の高いものを運ぶという新たな需要が喚起されていくのではないかと予測しています。

小菅村でのヒアリングでは、子育て世帯の方から「夜間に子供が発熱した際などに、すぐに薬を運んでもらえるなら、夜間救急のない過疎地域でも安心して住み続けられる」といったコメントもありました。あるいは、ピザ窯で焼いた熱々のピザを(陸路で山を越えて運んで帰ると冷めてしまうから)ドローンで届けてほしい、といったニーズもあり得るでしょう。

既存の輸送や配送の代替としてドローンが最適であるユースケースを洗い出すだけではなく、新たな需要を喚起することこそ、ドローン物流市場の拡大につながるのではないでしょうか。

そして、ゆくゆくはオンデマンド配送が一般化し、技術革新によりドローンの飛距離やペイロード(積載重量)も拡大されていくでしょう。10年、20年では難しいかもしれないけれど、いつでもどこでも何でも欲しいものがドローンで運ばれてくる、待ち時間のない便利な世界を実現できるよう、まずは小菅村でのドローン物流「社会実装」を丁寧に進めていきたいと思います。

小菅村での取り組みについての詳細は、別のブログで改めてご紹介する予定です。(5月下旬更新予定)

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